俺だって人間やるのずっと苦手だった。
そんな自分にぶっ刺さった。
又吉直樹さんの「火花」「劇場」に続き三作目の小説だ。
主人公の繊細な内面や行動描写に共感した。
一方で途中に何個か挟まれる不思議なものの見え方を、
どう解釈したらいいかと読解が難しい箇所があった。
だからといって面白くなかったわけじゃない。
色んな読み方、切り口があるとっても面白い本だ。
以下ネタバレ有り。
あらすじ
主人公は永山という38歳の男。
古い知人からメールを受け取る。
内容は学生時代にハウスという場所で共に過ごしたメンバーが、一悶着起こしているといった内容。
ハウスとはかつて過ごしていた美術系の学生たちが集まる共同住宅。
永山の脳裏にかつて心を打ち砕かれたハウスでのある出来事が蘇る。
本作は3章立てで
- 学生時代の苦しい思い出
- 過去を引きずって生きている現在
- 故郷でルーツをたどりそして…
といった感じの内容
感想
表紙について
すごく印象的な表紙だとおもった。
浅葱色のきれいな背景にどっしりとした輪郭の顔。
太いフォントで人間。
10年後この表紙を思い出せと言われたらしっかり正確に思い出せそうな。
文庫版は装丁が変わって
こちらは暗くて頭の上の部分が青みがかっていて 人間の悲しい感情みたいなのが
伝わってくるような表紙に見える。
繊細さんは主人公に共感できる
冒頭で永山が感情を表出するのが苦手だと分かる。
集団の中にいても、自分だけその場の会話に乗り切れない。
少し俯瞰してその場を見ている。
でも、それを悟られないようにと人目を気にしている。
そんな行動や感情に、ひとつひとつ、あるよなーと思いながら読み進めた。
乗り切れなくても確固たる自分という個があればいいんだけど、
それすらも周りの意見や空気によって不甲斐ないものに思えてしまう。
そんな20代前半の永山の思いに共感
自分も怒るべきところで怒れない、悲しい場面でも自然に表現できないなと感じる自分自身と
重なった。
途中出てくる不思議なモノの見え方
途中でちょくちょく不思議なシーンが出てきて、そこをどう解釈していいかが分からなかった。
人物が出てきてそれが急にほかの人物にすり替わる描写が数回出てくる。なにこれ?
分からないなりに解釈してみると
永山はこうだと思っていた体験が実は他者からしたら全く違う体験であって
ひどくショックを受けた体験がある。
永山がこうと認識したものが次の瞬間全く違うものにすり替わることで、体験として持っているものを
不安定なものとして印象付けるための描写なのかなと自分は読むことにした。
これは答えが最後まで分からなかった。
ポーズの影山=ピースの又吉さん
物語の中で出てくるポーズというお笑いコンビの影島道生
ピースと語感が似ており直木賞の受賞歴があるところまで
人物設定がまんまピースの又吉さんのような人物。
重なる部分は人物設定だけでなく、影島の本を酷評した後に
セクハラを訴えられ地位を失うことになったある大学教授の話まで。
自分は知らなかったけど、あのエピソード、実話なんかい。又吉さんしんどかったやろなー
もちろん又吉さんも影島を自分に重ねて読むようにリードしていると思われる。
だからそのまま素直に影島の感情の吐露を、又吉さんの考えとして読んだ。
影島は特定の個人に向けて、皮肉を交えてくさしたり、辛口に
徹底的に叩くことをする。
これは又吉さんからはあまりイメージできない行動だけど。
でも、芸人でありながら作家もするの?
あなたの本分はお笑いですよね?
面白いことを言ったらどうですか?
これらを相手は何を考えて発信したのか。
それに対してひとつひとつの言葉に嚙みついて論破して叩きのめすあの文章は
普段から自問して、自分の答えとして持ってたんだろうと思う。
でもね、論破した影島を暴走している人物として描写するのが
すごいなって思ったよ。正しいのはこっちだって言いたいんじゃなくて
それを言ってるのをまた中立な視点で眺めてる感じがイイ!
永山も又吉さん
まぁそりゃ全部じゃないけど永山の内省的な部分は、ご自身がされているyoutubeチャンネルでの
自己分析とかぶる内容が多い。沖縄編での家族関係についても同じで。あのアウトロー気味の父親のキャラは又吉さんの父親との関係に近いと思った。また、祖父とのエピソードも同じようなものを本人が語られた動画があった。
単っ純にめっちゃファンなので、ニヤニヤしながら読んだ。
物語に必要な人物配置とエピソードで感動のラストなんやろけど、めっちゃ又吉さんやなーみたいな
違うニヤニヤも出てきた。
又吉さんは芸人と作家という二つの肩書きを持って活動をしてきた。
そのことで生まれる周囲への葛藤や何かを創作する姿勢を物語を通して読み取ることができた。
こんな人におすすめ
- 繊細な人
- クリエイティブなことに感情を狂わす人!?
- 又吉さんのファン
- 本はじっくり1冊ずつのスタイルの方
めちゃくちゃ面白かったよー。
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